胸部

患者さんへのメッセージ

当院では、以前から低侵襲手術(より小さな傷ですむ手術)に注力しており、手術用ロボット「ダヴィンチ」による支援手術を取り入れています。薬物治療においては、ここ数年の進歩に目を見張るものがあり、多数の薬剤から患者さんに合ったものを判断して使用するオーダーメイド治療にも力を入れています。また、その患者さんのがん特有の遺伝子情報を網羅的に調べることによって、その方に合った薬剤を滞りなく提供できるよう、ゲノム医療も積極的に行っています。
患者さんの状態や思いに寄り添い、さまざまな職種の者が連携してシームレスにサポートできる体制を整えて治療にあたっています。


がん医療連携センター長
呼吸器外科 部長
宮原 亮

2000年代に分子標的薬、2010年代に免疫チェックポイント阻害薬といった新しいタイプのお薬が導入されました。呼吸器内科で扱う肺がんは、難治(なんじ)であること(治りにくいこと)に変わりはありませんが、これらのお薬を使用することにより治療成績の改善が見られています。近年肺がんの持つ遺伝子の変化に合わせた新しいお薬も開発され、医療の現場で使用できるようになってきました。抗がん剤と放射線治療との組み合わせが有効な場合もありますので、各主治医にご相談ください。

呼吸器内科部長 小熊 毅
呼吸器内科部長
小熊 毅

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肺がん

肺がんにかかる患者さんの数が増えつつあります。がんで亡くなる方の中で最も多いのが肺がんですが、早期に見つけて治療を受ければ完治する病気です。

当院では肺がんの完治を目指し、呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科が密に連携し診断と治療に取り組んでいます。毎週これら3科で合同会議を開き、それぞれの患者さんに最適な治療法を考えています。
「早期肺がん」の治療は、手術が最も効果的な治療となります。当院では手術用ロボット「ダヴィンチ(da Vinci)」を使用し、からだへの負担を減らした手術を積極的に取り入れています(ロボット手術についての詳細はこちら)。
大きさが5㎜未満の「小型肺がん」に対しては、呼吸機能を残しながら完治させることを目的として小さな範囲の肺切除を積極的に行っています。病状が進んだ「進行肺がん」に関しては、近年、がん細胞の増殖を止める治療薬や、免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を回復させる薬の開発が進み、適切な薬を選択することで、一層良い治療効果が期待できるようになっています。

特定の遺伝子変異によって肺がんを発症する場合があるため、当院ではそれらの遺伝子の変異を調べて、一人ひとりにより適した治療を提供する新しいがん治療(がんゲノム医療)も行っています。また手術のできない「進行期肺がん」の患者さんに対して完治を目的とした放射線治療や、「進行肺がん」の転移で起こる症状をやわらげるための放射線治療も行っています。

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胸腺上皮性腫瘍

胸腺とは、胸骨の裏にある器官です。幼い頃は、骨髄(骨の内部にあって血を造る組織)で作られた白血球の一つ「リンパ球」(さらに詳しくは「Tリンパ球」)を成熟させる役割があります。大人になると、胸腺は縮小して脂肪成分が多くなり、ほとんど働かなくなります。
胸腺上皮性腫瘍は胸腺にできる腫瘍で、「胸腺腫」と「胸腺がん」があります。
「胸腺腫」は、30歳以上の人がかかることが多く、患者数の割合に男女差はほぼありません。人口10万人当たり0.5人程度の人がかかり、比較的まれな病気となっています。また、この病気が原因となって、そのほかにさまざまな病気を起こすことが知られています。例えば、筋肉の力が弱くなる病気「重症筋無力症」をはじめ、貧血になる「赤芽球癆(せきがきゅうろう)」、感染症を起こしやすくなる「低ガンマグロブリン血症」、筋肉が炎症を起こす「筋炎」などです。

治療としては、基本的に外科手術で切除することが一番の選択肢となります。早期の場合は、からだへの負担を減らしたロボット支援手術が効力を発揮します。完全に切除できない場合は、手術に加えて薬や放射線による治療を組み合わせます。
「胸腺がん」は、「胸腺腫」よりも一層まれな病気です。胸腺腫のような合併症は起こしませんが、隣接する臓器に広がったり、他の臓器に転移する危険が高くなる特徴があります。治療方針は、胸腺腫と同じく切除が一番の選択肢となります。

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中皮腫

悪性中皮腫は、肺や心臓といった胸部の臓器をおおう「胸膜」・「心膜」や、腹部の臓器全体または一部をおおう「腹膜」にできる悪性腫瘍です。胸膜が80〜85%、腹膜が10〜15%、その他の部位での発生は1%以下とされています(肺癌診療ガイドライン2020年版より)。
主な原因の一つとして、アスベスト(石綿)を吸い込んだことであると考えられていますが、明らかにアスベストを吸い込んでいないにもかかわらず、この病気にかかっている方もみられます。

悪性中皮腫はまれな病気ですが、死亡数は増加傾向にあり、2017年には1,500人を超えました。今後の悪性中皮腫の発生ピークは2030年頃で、その数は年間3,000人に及ぶと予測されています。

悪性胸膜中皮腫は、初期のうちは無症状ですが、胸に水がたまっていくにつれて胸部に圧迫感をおぼえたり、日常生活の動作や軽い運動で息苦しさを感じたりします。肋骨や胸の壁の筋肉に腫瘍が広がると、胸や背中が痛むようになります。

悪性胸膜中皮腫の治療は、総合的に判断して決定されます(基準は、WHO分類による組織分類と、国際対がん連合が定めた病期(ステージ)分類法)。一般に、薬での治療後に切除できるケースでは外科手術が行われます。この病気は非常にまれで、手術方法が複雑であるため、手術ができる場合は年間手術数が多い専門施設に紹介させていただいています。  当院では切除が不可能なケースや、手術後に再発したケースに対して、薬物治療を中心に行っています。放射線治療は、外科手術や薬物療法を組み合わせた治療の一環として行うのが大半です。また痛みを抑制する目的で、心身の苦痛や辛さをやわらげる緩和治療を行うこともあります。

患者さんの日々の体調管理や、急に起こりうる症状に対処するため、お住まいがある地域の病院で治療を受けることの安心感は大きく、当院ではその点にも力を入れて診療にあたっています。

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京都市立病院

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