脳神経・頭頸部

患者さんへのメッセージ

当院では脳にできるさまざまな悪性腫瘍に対して画像診断から手術、病理診断、その後の化学療法や放射線治療に至るまで、各領域の専門科が協力することで患者さんが最大限の効果を得られる治療を提供する体制を整えています。
まず放射線診断科と協力して術前画像診断を正確に行い、できるだけ負担の少ない手術となるように心がけています。また摘出手術に際しては正常な脳組織を傷つけず、大きな後遺症が残らない安全な手術が行えるよう最新のナビゲーションシステムと電気生理学的モニターリングを活用して腫瘍を摘出します。
手術後は病理診断科(患者さんから採取した組織の診断を行う科)による正確な診断に準じた適切な化学療法と放射線治療を追加します。代表的な悪性脳腫瘍の神経膠芽腫では、テモゾロミド内服と放射線治療、ベバシズマブ点滴投与の追加、交流電場腫瘍治療を組み合わせて行い、外来通院治療で対応することで、“できるだけ自宅で過ごす時間を大切にし、QOL(生活の質)を守る治療”を実施しています。
転移脳腫瘍では、脳自体を圧迫する大きい腫瘍を摘出した後、放射線治療で抑制します。これまでは化学治療が効きにくいとされていましたが、最近では原発疾患(脳に転移する元となった癌)を治療する薬剤が脳にも効果を示す患者さんもしばしばみられるため、原発巣(最初にがんが発生した部位)の治療を担う診療科とも連携し、異なる治療法を組み合わせた“集学的な治療”を提供しています。
画像診断で悪性リンパ腫の可能性があれば、病変の一部を少し摘出する生検(生体検査の略)で病理学的診断を確定して不要な摘出を避け、非常に効果の期待できる血液内科での化学療法につなげていきます。
いずれにおいても院内の各科の風通しがよく、お互いに協力し合って患者さんの最大利益につながるような悪性脳腫瘍の治療を行っています。

脳神経外科部長 地藤 純哉
脳神経外科部長
地藤 純哉

がんにかかってしまったときに多くの患者さんは「死」が身近に迫っていると感じます。がん治療に効果があるかどうかを判断するのに「生存率」という言葉が使われているように、必ず治ると決まっているわけではないため当然の感じ方だと思います。
そのため特にご高齢の患者さんの中には「つらい治療を受けるくらいなら何もせずに自然に任せたい…」という方がいらっしゃいます。今は特別つらい症状がないのにがんと言われ、入院して手術を受けたり抗がん剤治療や放射線治療を受けたりするくらいなら、いっそ何もせずにこのままでいようと考えられるのだと思います。 しかし、ここで考えていただきたいのは、治療をせずにがんが大きくなってしまうと“痛みはもちろんのこと、話すことができなくなったり、息が苦しくなったり、食べることができなくなってしまったり”といったつらさや苦しさが長く続いてしまうということです。
そうならないよう、私たちと共にがんに立ち向かいませんか。
私たちはがんの治療だけでなく、治療のつらさを軽くする治療も同時に行い、バランスを取りながら進めていける治療を提案します。

耳鼻いんこう科 豊田健一郎
耳鼻いんこう科 部長
豊田 健一郎

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悪性脳腫瘍

悪性脳腫瘍の代表としては、①神経膠芽腫(しんけいこうがしゅ グリオブラストーマ)、②転移性脳腫瘍、③中枢神経原発悪性リンパ腫を挙げることができます。

①神経膠芽腫

神経細胞を支えている神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)から発生する最も悪性度の高い腫瘍です。手術でできるだけ病変を取り除き、放射線治療とテモゾロミドという抗腫瘍薬を併用する治療が一般的です。手術では正常な脳組織を傷つけず、安全に摘出が行えるよう当院では最新のナビゲーションシステムと、電気刺激で脳の感覚や運動をつかさどる部分を見極めるシステムを活用しています。また特殊な光で悪性腫瘍を光らせて腫瘍の部分だけを摘出し、取り残しや正常な部分を傷つけないようにできる5-ALAによる術中蛍光診断も行っています。ただし、摘出により言語障害や運動麻痺など、手術後の患者さんの生活に大きな支障が出ないように、あえて腫瘍を残し、その後の放射線治療と化学療法に期待することもあります。

その後は外来通院でテモゾロミドという内服薬(飲み薬)を続けます。また、がんは大きくなる際に、栄養をとるために新しい血管を作りますが、それを邪魔するベバシズマブという薬の点滴を併用することもあります。そのほか、2022年に特殊な電場を発生させて腫瘍細胞の分裂を妨げる「交流電場腫瘍治療システム」を導入し、新しい治療に取り組んでいます。
(交流電場腫瘍治療システムについてはこちら https://www.optune.jp/for_patients/library/

②転移性脳腫瘍

体にできたほかのがんが脳へ転移したものです。最初に発生したがんは、肺がんであることが一番多く、その他、乳がん、大腸がんなどがみられます。脳の一カ所に転移するよりもあちこちに生じることが多く、がん性髄膜炎という“脳の表面全体的に広がる転移”もあります。

腫瘤(しゅりゅう)、いわゆる“かたまり”が3cm程度となり、腫瘤そのものの大きさによって症状が出る場合は、摘出することもあります。数が多く広範囲にわたる場合は、脳全体に放射線治療を行います。しかしその後に認知症が進行するという問題があるため、数が少ない場合は放射線治療科と協力し、できるだけ照射範囲を絞った治療(定位照射)を選択します。

また最近では、最初に発生したがんの種類(遺伝子の型など)によっては、そのがんの治療薬が、脳に転移した腫瘍にも非常に有効なことがあります。以前は、脳転移があれば、それ以降の治療は難しいとされたこともありましたが、現在は治る場合もあり、最初にがんが発生した部位の担当治療科と十分に相談して治療を選択していきます。

③中枢神経原発悪性リンパ腫

最近、高齢の方に増えています。
まず、腫瘍が悪性リンパ腫であることの病理診断が欠かせません。そのため最新のナビゲーションシステムで正確に、ピンポイントで病変を少量切り取ります。 具体的には、頭蓋骨に小さな孔(あな)をあけ、そこから細い針状の管を挿入し、病変を採取します(針生検)。そしてフローサイトメトリーと呼ばれる方法を用いたり、染色体遺伝子を調べ、腫瘍のタイプや型を詳細に分析します。

その結果に応じて血液内科でメトトレキサート、リツキシマブなどの薬剤や、他の分子標的薬を適切に選択した化学療法を行ったり、場合によっては髄液(ずいえき)内に薬剤を注入したり、放射線治療を追加することもあります。

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頭頸部がん

頭頸部がんとは、“口や喉(のど)、首にできるがん”のことです。日本では頭頸部がんの患者さんは年間およそ3万5,000人発生しています。すべてのがんの5%程度の発生率であり、肺がんや胃がんに比べると発生頻度は低い病気ですが、口や喉などにできることから、食べにくい、息がしづらい、声が出しづらいなど、日常生活に直接結びつくような不具合が生じます。最近では特に口腔・咽頭(こうくう・いんとう)がんが増えています。主に50代後半以降の人に多く見られますが、30代、40代の若さでかかる人も増えています。

治療では、飲み込みや発声などの機能を温存しながら、しっかり治す「根治(こんち)」を目指すことが重要です。がん治療の3本柱と言われている「手術、放射線、薬物(抗がん剤など)による治療」も、最近では体への負担を可能な限り減らすよう“できるだけ傷を小さくする縮小手術”や、“正常な部分に放射線が当たることをできるだけ抑える放射線治療(強度変調放射線治療:IMRT)”を行い、新しく開発された多種類の治療薬(抗がん剤)が使えるようにもなっており、治療に伴ってつらい症状が出ることは、より少なくなっています。
当科ではこれらの治療法を多く取り入れ、患者さんに最適で、より負担の少ないやり方で根治を目指しています。

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口腔・咽頭がん

鼻と口とのどはつながっており、「口腔」は、“口の中”のことで、口腔と鼻につながり食道に至るまでが「咽頭」です。
口腔がんは、舌や歯ぐき、ほっぺたの内側の粘膜「頬粘膜(きょうねんまく)」に発生し、咽頭がんは、のどにあるリンパ組織「扁桃(へんとう)」、一般に言われるのどの粘膜「咽頭粘膜」に発生します。この口腔・咽頭のがんは、年間2万人ほど発生しています。
原因は、合わない入れ歯などで“こすれ”が起こることによる刺激や、お酒、タバコのほか、特殊なウイルスなどです。
口腔がんは、手術で治すのがよいとされており、手術を行うことがほとんどですが、咽頭がんでは放射線治療や抗がん剤を使っての治療が中心です。

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喉頭がん

年間5,000人ほど発生しています。声帯にある喉頭、いわゆる“のどぼとけ”のあたりに発生し、主な原因はタバコです。声を出す声帯がある場所にがんができれば声がかれたり、息苦しさを感じ、そうした症状が出ることで発見されます。早期に発見されれば放射線治療や手術で声帯を残して治療できますが、進行した場合は声帯の一部あるいは喉頭全体を摘出することもあります。

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唾液腺がん

頭頸部がん全体において、割合としては20人に1人発生しています。唾液腺は、簡単に言えば、耳の下の「耳下腺(じかせん)」、アゴの下の「顎下腺(がくかせん)」、口の中の「舌下腺(ぜっかせん)」で、ここに発生するのが唾液腺がんです。  “首の一部が腫れてくる、痛みがある”などの症状があらわれて発見されますが、原因は定められていません。良性、悪性にかかわらず唾液腺にできる腫瘍の治療は、手術によって摘出するのが原則です。

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京都市立病院

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