地域がん診療連携拠点病院
地域がん診療連携拠点病院としての役割
京都市立病院は2007年1月28日に「地域がん診療連携拠点病院」に認定され、京都乙訓二次医療圏の中で高度ながん診療を提供するためにがん診療関連業務の拡充を行ってきました。2015年4月には、新しい基準に適合する医療機関として認定更新を受けました。
1 がん診療業務を支える院内体制
地域のがん診療の中核医療機関である「地域がん診療連携拠点病院」が備える必要がある要件は多岐にわたります。各要件を満たしているかを検証し、毎年の現況報告を通じて確認するとともに、関連部門部署の円滑な連携を図り、PDCAサイクルを回して診療機能を向上させるための統括組織として、がん診療連携業務委員会を設置しています。充実した臓器別キャンサーボードが行われていることをチェックするとともに、その枠組みになじまない原発不明がんの診療や骨転移の症状緩和・ADL維持に特化して検討する拡大キャンサーボードや骨転移ボードを不定期開催しているほか、がん関連の委員会組織としては、化学療法レジメン委員会、がん相談支援委員会、かんわ療法委員会を設置しています。
2 外来化学療法センターの現状
現在、日本においては2人に1人ががんに罹患し、多くの患者がその合併症や治療の副作用と戦っています。一方,治療は大きく進歩し、多くのがん種において、がんと共存しながら仕事を継続し生活の質を維持できる外来治療にシフトしてきています。2018年度も休日にも外来治療ができる体制をとりました。
- 概要
2007年1月に外来化学療法センターを設置し、これまで消化器内科、呼吸器内科、血液内科、感染症内科、外科、乳腺外科、呼吸器外科、小児科、婦人科、泌尿器科、整形外科、皮膚科、腎臓内科、膠原病科、神経内科の計15科について外来化学療法を施行してきました。2018年度は合計月約386件、年間のべ4,636件のがん治療を施行しています。 - スタッフ
専従医及びがん化学療法看護認定看護師が配置されています。また、センター内薬剤調製室では専任薬剤師が外来患者及び入院患者に対する抗がん剤調製を行っています。 - レジメン
院内のレジメンはすべてがん腫ごとに登録されており、随時エビデンスに基づく更新を行い、現在総数約230です。これらは全て院内の化学療法レジメン委員会で検討し承認されたものであり、医師はレジメンフォルダーからしか処方できないシステムになっており、高い安全性を確保できています。 - 薬剤師の常駐
2013年11月から患者のセルフケア能力向上、有害事象重篤化の防止、地域薬局との情報共有などを目的に、化学療法センターに薬剤師が常駐し、患者さんのお薬手帳に化学療法で使用する抗がん剤などの内容を記載したシールを貼布し、点滴および内服内容の確認、有害事象の評価、支持療法の処方提案などを行っています。 - 休日の外来治療
2018年度は、休日の外来治療を2日間行いました。 - がん患者指導
医師と看護師がペアとなるがん患者指導:初診患者を中心に認定看護師と専従医が行っています。セルフケア支援に向けて、治療内容、有害事象の説明及び確認と初期クール終了後の有害事象の評価、入院中の投与における問題点、外来化学療法を施行するに当たっての問題点、緩和ケアの必要性などの評価等を行いました。有害事象についてはCTCAEガイドラインにより客観的に評価し、誰がいつ見ても同一基準で情報を共有できるように努めています。
看護師が主体となるがん患者指導:術前化学療法の説明,脱毛,栄養相談,フットケアなどの指導などを専門スタッフへつなげられるよう確認と評価を行っています。
薬剤師が主体となるがん患者指導:レジメン変更時に再度治療内容、有害事象説明及び確認と評価を行っています。また、近年注目を集めている化学療法時のB型肝炎再活性化を防ぐため、スクリーニングを徹底して行い、治療による再活性化が起きないよう肝臓専門医と連携を密に行い安全な実施に努めています。 - 化学療法勉強会
月に1度がん化学療法に関する勉強会を開催し、院外からも多数参加いただいています。 - 2019年度の目標
年間4,700件の投与を目標としており、EBMに基づいたがん治療標準化をさらに目指して、各診療科との密なキャンサーボード、勉強会開催による情報共有と発信を行い、緩和ケアの充実、在宅医療へのスムーズな移行など、今後地域がん診療連携拠点病院としての役割を果たせるよう継続的で個人に応じた質の高いサポートを提供してまいります。
3 放射線治療体制の充実
リニアックを導入し、kVビームによる明瞭な画像による骨照合や、透視像での照射目的病巣の描出、コーンビームCTの撮像などにより、外照射を行っています。この高性能リニアックにより、通常照射において腫瘍に対する線量集中性の向上や、正常組織への線量軽減を図るとともに、ハイテク照射である高精度放射線治療を行ってきました。
肺癌や肝癌に対する体幹部定位照射(SBRT)、脳腫瘍や脳転移に対する脳定位照射(SRS/SRT)、強度変調放射線治療(IMRT)、強度変調回転照射(VMAT)も行っています。その後、IMRT・VMATの対象は全がん種に対応しており、治療寝台上で取得した画像により位置補正を行う画像誘導放射線治療(IGRT)をほぼすべての外照射に適応する体制を整え、根治照射はもとより、予防照射、緩和照射にも力を発揮してきました。
2018年には、同一の治療計画を2台のリニアックのいずれにも適応できる体制を構築し,突発的な機器の故障にも,治療を中断せず照射継続できるようになりました。
また、このような最新鋭外部照射治療のみならず、子宮がん等に対するCTやMRIを併用した画像誘導の高線量率(HDR)腔内照射、前立腺がんや子宮頚がんに対するHDR組織内照射、多発性骨転移に対するRI内用療法などの充実した内照射、内用治療を行っています。照射技術の向上だけでなく、子宮がん腔内照射における疼痛緩和の取組なども進めています。
こうした外照射、内照射、内用治療を、自在に最適に組み合わせることによって、患者さんに優しいがん治療を目指しており、さらに地域がん診療連携拠点病院として技術・知識・経験の蓄積を行い、地域医療機関との連携をさらに深めることで、地域から信頼される総合的包括的放射線治療施設を目指しています。
4 がん相談支援業務の現状
がん相談支援センターでは、当院に入院中や通院中の患者さんはもとより、他院で治療を受けている患者さんの相談も受け、地域におけるがん患者さんや家族への支援を行っています。緩和ケアに関する相談については、センターで充分お話を伺ったうえで、必要に応じて各診療科・がん看護外来と連携を図っています。また、平成23年9月から、京都府内共通の肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん及び乳がんの地域連携クリティカルパス(地域連携手帳)を、平成26年9月からは前立腺がん地域連携手帳の運用を開始し、質の高い医療提供と連携を図っています。
そのほか,地域の医療機関からがん患者を受け入れ、当院で高度ながん治療を行った後に、治療の継続として地域の医療機関に紹介する、いわゆる切れ目のない地域医療連携を実施しており、在宅療養に向けた福祉介護サービス担当者との調整や、患者や家族の精神的・経済的不安に対する療養相談なども行っています。
年2回定期開催している「京都市立病院地域医療フォーラム」では、1回はがん診療関連テーマを取り上げており、地域の医療従事者等に対する教育・啓発活動を行っています。2018年9月には「がん患者の就労支援~仕事と治療の両立を支える~」,2019年3月には「がん診療における遺伝子診断~ゲノム医療の最前線~」のテーマで開催し,両会とも100名を超える方にご参加いただきました。
がん患者さんとその家族が自由に参加でき、がんに関する話だけでなく、日常の生活について、心の悩みや体験談を語り、交流する場として、患者サロン「みぶなの会」を月2回定期開催しており、2018年度は、延べ253名の方に参加いただきました。また、化学療法のケア、リンパ浮腫、後見人・社会制度、放射線治療のケア、糖尿病とがん等のテーマで、2ヶ月に1回がんに関する学習会を開催しています。みぶなの会のお世話係の方が発案の「絵本朗読会」には,40名の方に参加いただきました。
また、2010年11月に始まった乳がん患者の会「ビスケットの会」は、年3回の定例会、月1回の「乳がんサロン」を引き続き実施しています。
さらに、京都府がん医療戦略推進会議・相談支援部会の事務局として、京都府下のがん診療連携拠点病院と共に、がんに対する相談支援の充実に向けて組織的に取り組んでいます。
5 がん登録業務の現状
2016年1月から『がん登録等の推進に関する法律』が施行され『全国がん登録』が始まっています。『全国がん登録』は、日本でがんと診断された人のデータを国で一つにまとめて集計・分析される仕組みで、『毎年どのくらいの人が新たにがんと診断されているのか(羅患数)、診断時の進展度他』を把握し、国のがん対策や都道府県の地域医療計画に活かしていくものです。
当院では、国立がん研究センターの標準登録様式に即した院内がん登録を全診療科に適応し、京都府へのがん登録や、国立がん研究センターにもデータを提供しています。院内がん登録総数(国立がん研究センターへ報告)・地域がん登録総数(京都府への報告)は、2013年診断症例1,483件・1,088件、2014年診断症例1,528件・1,096件、2015年診断症例1,642件・1,610件、2016年診断症例1,737件・1,740件、2017年診断症例1,777件・1,779件と増加しています。
2007年診断症例から開始されてきた、がん診療連携拠点病院院内がん登録全国集計に関して、国立がん研究センターから初めて5年相対生存率が集計され、公開されています。
当院においても2009年から生存確認調査(予後調査)業務を継続的に取り組み、データを提供しています。
精度の高いがん登録を行い、がん診療の質の向上と患者さんへの情報提供や支援に役立たせられるよう取り組んでまいります。
6 緩和医療の充実
当院の緩和ケアチームは、緩和ケア科医師、精神神経科医師、看護師、薬剤師、臨床心理士、栄養士、MSWから構成され、毎週ミーティングに続いてチームで病棟ラウンドを行い、癌性疼痛のコントロールをはじめ、嘔気・嘔吐などの消化器症状、不安・せん妄などの精神症状に対応しています。さらに、食欲低下や味覚異常がある場合には提供する食事に個別の工夫を加えたり、免疫能低下や抗がん剤による口腔トラブルに対する口腔ケア、ADLを少しでも維持できるようなリハビリなど、院内各部署との連携のもとに患者のQOLの向上のための活動を行っているます。そのほか、患者の家族にも精神的ケアの範囲を広げ、切れ目なく在宅医療につなげられるような環境の整備を進めています。
地域がん診療拠点病院として2008年度から毎年一回、「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会」を開催し、病院内外から受講者を募集して緩和医療の教育啓発に力を入れています。
今後の課題として、がん診断初期からの緩和ケアを提供することによって迅速な症状緩和が図れるよう、苦痛のスクリーニングの重要性について院内の啓発に取り組む予定です。
7 がん看護分野専門・認定看護師の活動
がん看護分野では、“がん患者さんとご家族に届くケアの質を最大限にする”ために、専門・認定看護師それぞれが外来、病棟、緩和ケアチームで活動しています。
認定看護師は、がん化学療法看護・がん放射線療法看護・乳がん看護・緩和ケアの分野において、がん治療を受ける患者の苦痛や不安に向き合い、最後まで治療に取り組むことができるよう、専門性の高いケアを実践し療養生活をサポートしています。
がん看護専門看護師は、外来と病棟を組織横断し、直接患者ケアを提供する医療スタッフを様々な側面から支援したり、がん告知を受けた後の患者と家族の思いに寄り添い、患者を中心とした意思決定支援を実践している。このような実践を基盤として、がん診断時から緩和ケアを推進し、患者ひとりひとりが最後の時まで自分らしく生きることができるよう、医療チームの中心となり活動しています。
がん看護教育においては、エビデンスに基づく看護実践(Evidence Based Nursing)を全ての看護師が実践できるよう、がん看護実践に活かすための知識・技術を習得することを目的に2年間のプログラムを実施しています。
放射線治療体制の充実には、放射線治療の専門知識・技術を持った医学物理士・放射線治療品質管理士・放射線治療専門技師の配置・育成が必須であり、認定医学物理士が日常診療に当たるとともに、次世代の医学物理士育成にもあたっています。
薬剤科ではがん指導薬剤師、がん専門薬剤師、がん薬物療法認定薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師が、がん診療に関するチーム医療に従事して専門性を発揮しています。
8 がん症例検討の現状と課題
がん診療は、患者さんが来院して診断や治療を受け、退院して外来通院に至るまで、医師のみならず臨床病理検査技師、放射線科技師、看護師、薬剤師、理学療法士などの多職種がかかわっていくチーム医療の原点です。がん診療連携拠点病院の指定を期に、これまでの当該診療科医師だけで行っていた症例検討を改め、多職種が参加するカンファレンス、いわゆるCancer Board Meetingを目指してきました。しかし、すべてのがん症例を多職種で検討するという本来の機能が十分に備わっていないのが現状であり、機能の充実が今後の課題です。現在、消化器、呼吸器、泌尿器、肝臓、乳腺、血液の各領域で複数診療科と職種によるがん症例の検討会が行われています。2018年度の開催実績(開催回数;検討症例数)は、消化器:85回;228症例、呼吸器:43回;612症例、肝臓:31回;38症例、乳腺:48回;211症例、造血幹細胞移植合同カンファレンス12回;53症例、血液内科・病理合同カンファレンス:12回;24症例などでした。