鼠径(そけい)ヘルニア
鼠径ヘルニアについて
鼠径ヘルニアとは、足の付け根(鼠径部)がポッコリと膨らむ病気です。お腹の内側には腹膜という内臓を包んでいる膜がありますが、お母さんの胎内で成長する過程で、足の付け根(鼠径部)から男の子であれば陰嚢、女の子であれば恥骨の方へと袋状に伸びていきます(鞘状突起)。この袋は通常は生まれる前に閉じるのですが、閉じずに残ってしまうお子さんがおられます。その袋に内臓(腸や脂肪の膜、女の子であれば卵巣・子宮など)が飛び出すようになった病気を鼠径ヘルニアと言います。
治療について
飛び出した内臓が出たり入ったりしているうちは緊急性はありませんが、何かのきっかけで腸が大きく飛び出すと戻らなくなり(嵌頓)、腸が腐ってしまう(壊死)危険性があります。そのため、早めの手術をお勧めしています。
赤ちゃんの鼠径ヘルニアは自然に治る事があります。その一方で嵌頓の頻度も高いとされています。赤ちゃんはしゃべることができず泣くのみで、嵌頓に気づくのが遅くなる危険性があります。当院ではご両親と相談して手術のタイミングを決めています。
手術について
鼠径ヘルニアの手術には従来から行われている鼠径法と、腹腔鏡手術とがあります。どちらの手術法もコンセプトは同じで、原因となっている袋を根元で縛る手術です。再発率、合併症率などの治療成績は同等です。どちらの手術も全身麻酔で行います。
鼠径法と腹腔鏡手術(LPEC)とは以下の2点に差があります。
傷の大きさ
鼠径法では足の付け根を約2cm切開して手術します。腹腔鏡では手術の傷は、お臍(約5mm)、右脇腹(約3mm)、足の付け根(針穴)の3ヶ所になります。
術後の対側発症
鼠径法で片側の鼠径ヘルニアの治療を行った場合、手術後に約6%(17人に1人)の頻度で反対側に鼠径ヘルニアを発症します。腹腔鏡では手術の時に反対側にヘルニアの原因となる袋があるかを確認し、治療できます。これによって手術後の反対側の鼠径ヘルニア発症を1%弱まで減らす事ができます。(写真は左鼠径ヘルニアの手術時に発見された右側鼠径部の袋です。)
入院期間について
当院では1泊2日が基本としています。手術の前日に入院していただき、体調に問題がないか確認し、手術に備えます。この日に麻酔科医師の診察と麻酔の説明があります。2日目の朝に手術を行います。術後、麻酔からしっかりと覚めたことが確認できた後、夕方に退院となります。1週間後に外来で傷の状態などを確認します。
ただし、喘息や心臓の病気などを抱えているお子さんについては、手術翌日の朝まで経過観察のために入院していただきます。(2泊3日の入院になります。)
また、入院日が休日・祝日の場合は、入院までに外来で麻酔科医師の診察と麻酔の説明を受けていただくようになっています。
生活での注意点について
術後の痛みについては個人差がありますが、小さなお子さんほど痛みには強い印象があります。退院の翌々日あたりから保育園や幼稚園の通園が可能となることが多いです。激しい運動については術後1週間は控えていただくようにお願いしています。