がん医療について(医療関係者向け)
京都市立病院のがん治療について
がんの早期発見
当院では、生活習慣病をはじめ、がん、脳血管障害、心臓病など、病気の早期発見、治療を目的として、人間ドックを行っております。通常の人間ドックの検査に加え、前立腺がんの発見に効果的なPSA検査などの腫瘍マーカー検査や肺がんの診断に有効な胸部CT検査、がん細胞発見に力を発揮するPET-CT健診など、各種がん関連の検査も取り揃えております。
疾患別がん治療の方針
肺がん
肺がんは、小細胞がんと非小細胞がんの2つに大きく分けられます。
小細胞肺がんは、肺がんの約15〜20%を占め、増殖が速く、脳・リンパ節・肝臓・副腎・骨などに転移しやすく悪性度の高いがんです。しかし、非小細胞肺がんよりも抗がん剤や放射線治療の効果が得られやすいと言われています。
非小細胞肺がんは、小細胞がんではない肺がんの総称で、肺がんの約80〜85%を占めています。腺がん、扁平(へんぺい)上皮がん、大細胞がんなど、多くの異なる組織型があり、発生しやすい部位、進行形式と速度、症状などはそれぞれ異なります。いずれの場合も化学療法や放射線治療で効果が得られにくく、手術を中心とした治療が行われます。
肺がんに関しては、肺癌学会で作成された肺癌治療ガイドラインに従い、病期によって行うべき治療が異なってきます。(病期の説明と治療選択については「肺がん病期説明」のページ)をご覧ください。
肺がんを中心とした腫瘍に対する治療方針の決定に向けて、毎週月曜日、呼吸器内科・呼吸器外科・放射線診断科・放射線治療科の合同カンファレンスを行っています。そこでの検討をもとに専門性を生かした集学的治療を提供していきます。
肺がんの分類
組織分類 | 多く発生する場所 | 特徴 | |
---|---|---|---|
非小細胞肺がん | 腺がん | 肺野部 | 女性の肺がんで多い |
症状が出にくい | |||
扁平上皮がん | 肺門部 | 喫煙との関連が大きい | |
大細胞がん | 肺野部 | 増殖が速い | |
小細胞肺がん | 小細胞がん | 肺門部 | 喫煙との関連が大きい |
転移しやすい |
胃がん
胃がんの罹患数は年々増加の傾向にあり、2014年の罹患数は、全てのがんのうち男性では第2位、女性では第4位となっています。
胃がん発生の危険因子として、喫煙(非喫煙者の1.6倍の罹患率)・ピロリ菌(日本人の保菌率は高い)・塩分の多い食事(味噌汁、漬物、塩蔵食品)・EBウィルス(日本人の胃がんの約7%に関与)などが挙げられます。一方、予防・抑制因子として、野菜(でんぷんを除く)・果物の摂取、ビタミンC(緑茶、緑黄色野菜に含まれるカノチロイド、玉ねぎやニンニクに含まれるアリウム化合物)などが挙げられます。
胃がんの治療には外科手術や内視鏡的切除(胃カメラで早期の胃がんを切除)、化学療法、分子標的治療(ハーセプチン)、放射線治療などがあり、深達度と転移の有無によって治療法が選択されます。当院では、切除可能な胃がんに対しては、原則として腹腔鏡下にて胃切除を行っています。
大腸がん
大腸がんの罹患数は年々増加しており、全てのがんのうち女性で第2位、男性でも第3位となっています。
危険因子として、赤身肉や加工肉、不飽和動物脂肪酸、飲酒や喫煙、炎症性腸疾患が挙げられます。早期では、自覚症状がないことが多いため、健診や人間ドックを受診しましょう。
進行している場合、腹痛・血便・便秘やイレウスといった症状が見られます。転移がなければ5年生存率は80%であり、StageⅢまでは手術が適応となります。
当院では、消化器内科、総合外科で治療を行っており、手術実績は年間約80〜100例で、痛みも少なく回復も早い腹腔鏡手術が86%を占めています。また、直腸がんに対するロボット支援手術の導入も予定しています。進行がん症例では、手術後または術前に化学療法を行います。基本となる5-FUとオキサリプラチン・イリノテカンや分子標的薬といった新しい抗がん剤と組み合わせて治療を行います。
肝臓がん
肝臓がんは日本人に多く1975年頃から急増し、肝がんによる死亡者数は毎年年間約3万人、がんによる死因原因では第5位となっています。
肝臓がんには、栄養素の合成・分解貯蔵・解毒に関係する肝細胞から発生する「肝細胞がん」と、胆汁の通り道である胆管の上皮を形成する細胞から発生する「肝内胆管がん」があります。肝細胞がんが肝臓がんの約9割を占めますので、肝臓がんといった場合、肝細胞がんを指すこともあります。
肝細胞がんに対する治療は、手術療法・局所療法(ラジオ波焼灼療法、エタノール注入療法)、カテーテル治療(肝動脈化学塞栓療法、動注化学療法)・放射線療法・化学療法・緩和医療など、非常に多くの選択肢がありますが、患者さんの体力やがんの状態に応じて適切に使い分ける必要があります。また、再発の多いがんであるため、複数の治療法を繰り返し行うこともあります。
消化器内科、総合外科、放射線診断科、放射線治療科、病理診断科や看護師など多職種によるCancer board meeting (CBM)を定期的に行い、肝癌診療ガイドラインに則って、患者さんに最も適した治療計画を立て、それに基づいて治療を行っています。
乳がん
乳がんは女性の「がん」の中では最も多く、20%以上を占めています。しかし、早期発見、適切な治療によって、乳がんになっても治る方はたくさんおられます。
乳腺外科では、「科学的根拠に基づいた医療、患者様に優しい診療」を基本方針としており、部長(日本乳癌学会乳腺専門医・指導医、日本乳癌学会評議員)をはじめ、女性医師を含めた3名の体制で診療を行っています。
乳がんは、検超音波検査やマンモグラフィ、乳房MRI検査などの「画像検査」と、しこりなど病変の細胞や組織を針で採取して顕微鏡で調べる「病理検査」で診断します。治療は、外科療法、薬物療法、放射線療法があります。これらの治療を組み合わせ、最適な治療方法を患者さんに提案し、患者さんのご意見や価値観を伺った上で治療方針を決定します。また、乳がんの手術で失った乳房を再建する手術も積極的に行っており、近年増加しています。
当院では多くの職種の専門家が「一人ひとりの患者さんを支えるチーム」となり、患者さんを支えます。また「ビスケットの会(乳がん患者会)」の活動も行っています。
子宮がん
婦人科がんの頻度は10万人に対し、子宮頸がん30人、子宮体がん10〜15人が発症すると言われています。
過去の報告では、子宮体がんよりも子宮頸がんのほうが多かったのですが、2007年をさかいにほぼ同数の報告数となり、年々増加傾向です。
子宮頸がん
子宮頸がんは子宮頚部にでき、性交渉の相手が多い、妊娠・出産回数が多い、性交渉開始年齢が早い方などに起こりやすい病気です。30歳から60歳、特に30〜40歳に発症しやすいと言われており、接触出血による初期症状で見つかります。
子宮頸がんの治療は進行期別に治療法が異なり、「手術」「放射線照射」「抗がん剤治療」があります。また、放射線治療と抗がん剤治療を併用して行うこともあります。
妊娠中に子宮頸がんを発症した場合も、進行期と胎児の状態を考えながら手術を行うことがあります。
治療後は、再発の早期発見と術後の合併症、後遺症の早期発見のため5年以上の外来通院となり、検査を行いながら経過観察していきます。
子宮体がん
子宮体がんは子宮体部にでき肥満・高血圧・糖尿病未経産婦、エストロゲン製剤の長期使用などに起こりやすい病気です。50歳をピークに40歳から60歳に発症しやすいと言われており、不正性器出血による初期症状で見つかります。子宮体がんはその種類や進行期により、保存療法や手術療法を用います。手術では子宮と共に卵管・卵巣も摘出します。それは、卵巣への転移や卵巣がんが一緒に発生している危険があるからです。術後は、経過観察や化学療法、放射線治療を行います。
前立腺がん
前立腺がんは早期に自覚症状はなく、進行するにつれ残尿感や排尿時痛などの症状が現れます。
手術療法については、平成25年から手術支援ロボット「ダヴィンチ」を導入しており、ロボット部の内視鏡によって3Dの高精細拡大映像が送られ、術者は手元で組織や鉗子を細部まで確認することができます。術者の手の動きは実際よりも小さな動作に変換され、手ぶれも取り除かれてロボットアームに伝わるので、人の手の関節以上に自由に細やかに動かすことができます。
良好な視野、精密な観察、緻密な操作を備えた手術支援ロボットによって、前立腺を確実に摘出しつつ周囲の神経などの損傷を最小限にし、根治と生活の質の両立を可能にします。
がん相談支援について
病気と向き合うことは、納得のいく医療を受けるための第一歩です。そのためには、自分の病気や治療法について十分に理解することが大切です。特にがん治療・療養において、情報は“力”となります。治療やケアを受ける上で、正しい情報を上手に集めることが重要になります。
がん診療連携拠点病院として、本館1階の患者支援センターに「がん相談支援センター」を設置しており、がんの医療に係る様々な質問や相談にお応えしています。「がんやその治療について知りたい」、「今後の療養について相談したい」、「医療費のことが心配」、「痛みや緩和ケアについて知りたい」、「セカンドオピニオンを受けたい」などお気軽にご相談ください。がん相談員が相談をお受けてしています。相談内容によっては、院内のスタッフと連携し対応しています。
相談は無料です。どなたでもご利用いただけますので、お気軽にお立ち寄りください。
がん看護について
がん看護外来と乳がん看護外来を開設しています。
がん看護外来では、患者さんとご家族が、がん告知後の不安を抱えながらもがんと向き合い、自分らしく生きるためのさまざまな意思決定サポートを行っています。医師をはじめ、看護師、薬剤師、栄養士、リハビリ、ソーシャルワーカー、心理士といった院内の医療スタッフや在宅医療スタッフと連携を図り、患者さんとご家族の心配事や不安を解決できるよう専門看護師が相談に応じます。
乳がん看護外来では、乳がんと告知を受けた時から、治療選択や不安などの相談や精神的フォローを行っています。なかでもリンパ浮腫は、手術を受けた患者の5割で発症するという報告もあり、認定看護師が乳腺外科医師と連携して、リンパ浮腫予防指導およびリンパ浮腫を発症した、乳がん患者へのセルフケア支援、弾性着衣、セルフドレナージ指導を行っています。
化学療法センターについて
2007年1月に地域がん診療連携拠点病院に指定され、外来化学療法センターを設置、これまで5大がんおよび造血器腫瘍をはじめとして、月平均350件(2017年度)の治療を行ってきました。初診時から診療科と密に連携をとりながら、有害事象の評価、把握につとめ、セルフケア支援、服薬指導など全経過を通して多職種によるチーム医療を根底に活動しています。
分子標的薬の登場に伴い治療は大きく進歩し、多くのがん種においてがんと共存しながら仕事を継続し、生活の質を維持できる外来治療にシフトしてきています。地域連携を強化し、積極的に受け入れていき、継続したサポートに向けて取り組んでいます。
がんゲノム医療について
当院は、2018年10月に「がんゲノム医療連携病院」の指定を受けました。
中核拠点病院である京都大学医学部附属病院と連携を図り、がん遺伝子パネル検査を実施しています。
がんゲノム医療には、倫理的な側面も多く存在します。当院では、がんゲノムチームで患者さんをサポートしながら、質の高いがん診療を提供しています。
緩和医療の充実
「緩和ケア」というと、従来はがんの終末期に受けるものというイメージが強くありましたが、現在はがんの診断時から抗がん治療と併行して受けるケアであると位置づけられています。
緩和ケアは身体的苦痛や精神的苦痛のみでなく、社会的苦痛(経済的な問題、仕事上の問題等)、スピリチュアルな苦痛(人生の意味への問い、死に関すること等)を含めた「全人的苦痛」を軽減することに努め、患者さん・ご家族の人生や生活の質(QOL)の向上を目指します。
がん診療に携わる医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、リハビリ専門職、臨床心理士などがチームとなって支援を行っています。
がん治療設備のご紹介
がん検査(PET-CT)
患者さんに最適な治療を受けていただくためには、患者さんの病状を詳しく知ることが必要です。そのためにPET-CT検査は重要な検査です。
PET-CT装置はX線CTにPETと呼ばれる特殊なカメラを一体化させたものです。
PETは、がん細胞が正常な細胞と比べてブドウ糖を多く消費するという性質を利用して、フッ素18という放射性物質をくっつけたブドウ糖(検査薬18F-FDG)を投与し、体内のがん細胞の場所を見つけるものです。ただし、PETはお薬が集まっている場所ははっきりと映りますが、正常な臓器はうっすらと映るだけであるため、がん細胞の正確な場所を知ることは困難です。そこで体内の臓器の場所がはっきりわかるCTを同時に撮影し、重ね合わせることでお薬の集まった場所(=がん細胞の場所)を正確に知ることができます。
この検査によって、がんの主病変(原発巣)の進行度(大きさや広がり)、転移の有無(リンパ節転移や他の臓器への転移)がわかります。PETによって「がん細胞の糖の代謝」を捉えることで、「がんのかたち」を捉えるレントゲンやCTとは違った情報が得られます。すなわち、かたちとして見えにくいがんの活動性を見ることによって、より正確ながんの病状が把握できるわけです。
放射線治療(リニアック)
がん治療では、「手術治療」「放射線療法」「化学療法」をうまく組み合わせて治療することが重要です。そのうち、「放射線療法」には、手術により切除することなく、臓器の形や機能を維持することができる利点があります。
体の外部から照射する高精度リニアック2台と、体内に器具を挿入し、内部から照射する小線源照射装置1台を保有しており、放射線治療専門医2名体制で、専門スタッフ(診療放射線技師・医学物理士・看護師)と協力し、高精度ながんの放射線治療を提供しています。
<当院の特徴>
- 病巣部に集中させた高精度照射(定位放射線治療・強度変調回転照射)が可能です。
- 専門資格を有したスタッフによる正確かつ安全な照射を行っています。
- がん放射線療法看護認定看護師と専従看護師によるきめ細かな看護ケアを提供します。
- 多職種のスタッフがチームを組んで、患者さんへの最適な放射線治療を提供しています。
手術(ダヴィンチ)
2013年7月、手術支援ロボット‘da Vinci Si Surgical System’(以下「ダヴィンチ」)を導入し,現在は泌尿器科、呼吸器外科、外科で行っています。
ダヴィンチはサージョンコンソール・ピジョンカート・ペイシェントカートの3つのパートから構成されており、術者は、サージョンコンソールで3D画像を見ながら、マスターコントローラーを操って手術を行います。この術者の操作は、患者のそばに配置されるペイシェントカートの鉗子が高い精度で再現します。
ダヴィンチには、以下のような特長があります。
- EndoWristと呼ばれる鉗子の多関節機能
鉗子を自分の手のように自由な方向に動かすことができます。これは従来の腹腔鏡手術では不可能でした。 - 手ブレ防止機能
術者の手のふるえによる「手ブレ」を消し、ミリ単位の精緻な手術が可能になります。 - 3D画像
奥行きのある高画質の3D画像を見ながら手術できるので、より安全で確実な手術が可能になります。
治療実績
平成29年度 疾患別がん診療機能、診療実績、認定資格、治療方針、治療成績等について(pdf)
平成28年度 疾患別がん診療機能、診療実績、認定資格、治療方針、治療成績等について(pdf)
平成27年度 疾患別がん診療機能、診療実績、認定資格、治療方針、治療成績等について(pdf)
平成26年度 疾患別がん診療機能、診療実績、認定資格、治療方針、治療成績等について(pdf)
平成25年度 疾患別がん診療機能、診療実績、認定資格、治療指針、治療成績等について(pdf)
平成24年度 疾患別がん診療機能、診療実績、認定資格、治療指針、治療成績等について(pdf)