乳腺外科
はじめに
皆さんもご存知のように、乳がんは女性のかかる「がん」の中で最も多く、女性の「がん」の23%を占めると言われています。しかし、乳がんになっても根治する方も多くおられ、早期の発見、適切な治療が行われれば治療成績は良好です。定期的に乳がん検診を受け、気になる異常があれば、すぐに乳腺外科を受診しましょう。
皆さんは「チーム医療」という言葉をご存知でしょうか。「がん」の診療には担当医だけではなく、多くの職種の専門家が関わっています。多くの職種の専門家が、一つのチームとして患者さんの診療に関わっていくのが「チーム医療」です。当院では、乳腺外科、放射線診断科、放射線治療科、病理診断科、形成外科の医師、乳腺認定看護師、放射線治療認定看護師、がん看護専門看護師、病棟看護師、薬剤師、医療社会福祉士など、多くの職種の専門家が、「一人ひとりの患者さんを支えるチーム」となり、定期のカンファレンス(検討会)を通じて、最適・最良な診断、治療、療養を行えるよう一丸となり、患者さんを支えます。
乳腺のことで気になることがあれば、一人で悩まずにどうぞ乳腺外科にご相談ください。私たちが力になります。
基本診療方針
『科学的根拠(エビデンス)に基づいた医療』、『個別化』(患者さんの個々の状況に応じた治療)、『患者さんに優しい診療』を基本方針としています。
最新の知見に基づいて、外科療法、薬物療法、放射線療法などの最適な治療を提案し、個々の患者さんのご意見や価値観を考慮した上で、最良の治療を行います。
医師紹介
部長 | もりぐち よしお 森口 喜生 |
乳腺外科 |
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日本乳癌学会乳腺専門医・指導医、日本乳癌学会評議員、京都大学医学部臨床教授、 日本外科学会外科専門医・指導医、検診マンモグラフィー読影認定医、 日本オンコプラスティックサージャリー学会、エキスパンダー実施施設代表責任医師 |
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副部長 | すえつぐ ひろみ 末次 弘実 |
乳腺外科 |
日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会外科専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、 日本乳癌検診精度管理中央機構マンモグラフィー読影認定、日本乳癌検診精度管理中央機構乳腺エコー認定、 日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会乳房再建用エキスパンダー/インプラント基準医師、 緩和ケア基本教育のための都道府県指導者、がん化学療法医療チーム養成にかかる指導者、日本DMAT隊員 |
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医長 | にしむら しょうこ 西村 祥子 |
乳腺外科 |
日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会外科専門医、検診マンモグラフィー読影認定医、 超音波検査認定医 |
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医員 | はっとり きょうこ 服部 響子 |
乳腺外科 |
外来担当医表
* 火曜日には遺伝性乳癌外来も行っています。
* 市民検診、ドックなどで乳房の異常を指摘され、精密検査が必要と言われた方や、自覚症状(しこりや分泌物など)のある方は、紹介状が無くても予約センター(075-311-6361)にお電話をいただければ、初診の診察の予約を入れることができますので、どうぞご利用ください。
* 初診の方は、2Aブロック受付にて問診表にご記入いただき、待合でお待ち下さい。
* 毎週水曜日の乳がん看護外来の受診(荻野看護師)については、外来担当医師にお尋ねください。
取り扱う主な疾患・診療内容
取り扱う主な疾患は、乳がん、葉状腫瘍、乳管内乳頭腫、線維腺腫、乳腺症、乳腺炎、女性化乳房症など、悪性から良性疾患に至る広範な乳腺疾患の診療を行っています。
診断では視診触診の後に超音波検査、マンモグラフィ(トモシンセシス)、MRI、CT、PET-CT等の画像診断を行っています。必要に応じて、穿刺吸引細胞診、マンモトーム生検、針生検などの病理検査を行い、乳がんにおいては治療前に腫瘍の性質(ホルモンレセプターやHER2、Ki67など)について検査を行い、腫瘍のサブタイプに応じて治療方針の決定を行っています。乳房の石灰化病変の適応症例にはマンモグラフィーの機器を用いたステレオガイド下マンモトーム生検を行っています。
乳がんにおいては適応に応じて、手術前に積極的に術前化学療法(症例に応じて短期間でのdose-dense化学療法も行っています。)又はホルモン療法など、腫瘍の性質(サブタイプ)に応じた術前薬物療法を行い、乳房温存率の向上、手術侵襲の軽減に努めています。手術においては適応を十分に検討した上で、乳房温存手術やセンチネルリンパ節生検を行い、侵襲が少なく、確実・安全な手術に努めています。また、乳房の再建手術も積極的に行っています。乳房切除術や広範囲な部分切除が必要な方に対して形成外科と連携し、自家組織や人工物(エキスパンダー、インプラント)による一期的乳房再建手術を積極的に行い、整容性の維持に努めています。入院当日に全身麻酔の手術を行うことで短期の入院手術も可能です(最短1泊2日の入院)。
術後補助療法として、個々の患者さんの病状に応じたホルモン療法、化学療法、分子標的治療、放射線治療を施行しています。化学療法は外来化学療法センターで確実な管理のもと施行しています。適応症例には腫瘍の多遺伝性アッセイ(オンコタイプDX、Curebest 95GC)を行い、可及的に化学療法の回避に努めています。
適応に応じて遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)のBRCA1/2遺伝子検査を行い、治療方針の決定や血縁者の検査、検診の方針の決定に役立てています。遺伝性乳癌外来では、HBOCなどの遺伝性乳がんの相談や説明を行い、必要な方は当院の遺伝診療部、遺伝カウンセリング(自費診療)にて遺伝子検査を行うことが可能です。また転移再発症例では、がんゲノム医療を行っています(詳細は遺伝診療部のページをご覧ください。)。
当科では、総合病院の利点を最大限に生かし、乳腺外科医、放射線診断医、放射線治療医、病理医、緩和ケア医、放射線技師、検査技師、看護師、乳がん看護認定看護師、薬剤師、MSWによる多職種カンファレンスを行い、患者様の情報を共有し安全・確実・迅速・最良な診療を行っています。
外来と検査
1 乳がんの症状と外来受診について
乳房のしこりや乳頭からの異常な分泌物(特に出血、黒っぽい分泌物など)、皮膚のひきつれなどが、あればすぐに乳腺外科を受診しましょう。
それ以外にも、乳頭がじゅくじゅくしてただれたり(びらん)、乳房の皮膚が赤くなったり、腫れぼったい、脇の下にしこりがあるなどの症状があれば、乳腺外科を受診してください。また、自覚症状が無くても、検診で異常を指摘され精密検査を勧められた場合は、速やかに受診をしてください。
乳腺は体の表面にあるので、自分でも簡単に調べられる臓器です。月に1回は、自分でも触ってみましょう。
2 当院の検診(市民検診、人間ドック、乳がんドック)について
京都市の市民検診(施設検診)を行っています。また、当院の人間ドックの際に、乳がん検診を行うこともできます。また乳腺のみのドック(乳がんドック:視診触診、エコー、マンモグラフィー)も行っています。
予約・詳細は、当院の健診センター(075-311-6344)へお問い合わせください。
3 乳がんの検査について
乳がんの検査についてのページをご覧ください。
乳がんの治療について
1 手術について
現在の標準的な術式は、乳房部分切除術又は胸筋温存乳房切除術です。これに加えて、腋窩リンパ節に対して、センチネルリンパ節生検又は腋窩リンパ節郭清が行われます。腫瘍の大きさ、拡がり、リンパ節転移の有無、患者さんのご希望などを含め詳細な検討のうえ、術式を決定いたします。
乳房切除術や広範囲な部分切除後には、患者さんのご希望に応じて乳房再建術を行います。形成外科専門医と連携して、乳房の手術と同時に、自家組織を用いた乳房再建術や、ティッシュエキスパンダーを用いた人工乳房による再建術を行っています。また、乳房切除術後の乳房再建術(2次再建術)についても、形成外科と連携して行っています。詳細は担当医にご相談ください。
*ラジオ波焼灼療法について
ラジオ波焼灼療法とは、乳房を切らずに、乳房の腫瘍に細い針のような電極針を挿入して、腫瘍細胞を焼きつぶす方法です。ラジオ波焼灼療法は腫瘍の大きさが1.5cm以下であることなど一定の条件を満たす初期の乳がんが対象となります。当科でも早期実施に向けて準備中です。
手術の流れはこちらをご覧ください。
2 薬物療法について
⑴ 化学療法
個々の患者さんの病状に応じて、手術時(術前又は術後)や転移再発時に化学療法(抗がん剤)を行います。抗がん剤にはアンスラサイクリン系、タキサン系など多くの種類やその組み合わせがあり、患者さまに最善と思われる治療を行います。
医師、薬剤師、化学療法認定看護師などによる「チーム医療」として、投薬内容、調剤の厳重な管理や実際の投与、副作用への対応を行います。基本的に外来化学療法センターにて施行します。
⑵ 分子標的治療
がん細胞は、正常細胞と違い際限なく増殖し続けますが、増殖するのに必要な特有の因子があり、これらの因子をねらい撃ちする治療を「分子標的治療」、それに用いられる薬を「分子標的治療薬」といいます。
詳細な適応などについては、担当医よりご説明いたします。
抗HER2(ハーツー)薬
(1)トラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)、ペルツズマブ(商品名 パージェタ)
(2)トラスツズマブ エムタンシン(商品名 カドサイラ)
(3)ラパチニブ(商品名 タイケルブ)
(4)トラスツズマブ デルグステカン(商品名 エンハーツ)
血管新生を標的にする薬
ベバシズマブ(商品名 アバスチン)
骨転移に使用する分子標的治療薬
デノスマブ(商品名 ランマーク)
転移・再発乳がんでホルモン療法と併せて使う分子標的治療薬
(1)パルボシクリブ(商品名 イブランス)
(2)アベマシクリブ(商品名 ベージニオ)
(3)エベロリムス(商品名 アフィニトール)
遺伝性乳がん卵巣がん症候群に対する分子標的治療薬
オラパリブ(商品名 リムパーザ)
*タラゾパリブ(商品名 ターゼナ)
*カピバセルチブ(商品名 トルカプ)
免疫シグナルをコントロールする分子標的治療薬(免疫チェックポイント阻害薬)
(1)ペムプロリスマブ(商品名 キートルーダ)
(2)アテゾリズマブ(商品名 テセントリク)
⑶ ホルモン療法
乳がんの約7〜8割は、ホルモン受容体陽性(がんの組織を採取して調べます。)であり、このような方はホルモン療法の適応になります。術後のホルモン療法として、閉経前では、抗エストロゲン薬を用いますが、場合によってはLH−RHアゴニストという注射薬も併用します。閉経後では、アロマターゼ阻害薬、または抗エストロゲン薬を用います。
ホルモン療法は場合によって異なりますが、5年から10年続けます。転移再発の場合も、基本的にホルモン療法の効果がある場合はできるだけホルモン療法を継続しますが、効果が期待できなくなれば化学療法に変更します。
ホルモン療法にも顔のほてり、関節痛などの副作用があります。担当医や薬剤師、看護師にお気軽にご相談ください。
3 放射線治療について
乳房温存手術後は、原則的に全例で、そして乳房切除術後でも進行した症例の場合には、術後放射線治療を行います。治療は外来通院で行いますが、温存乳房照射の場合、症例により異なりますが3週間から6週間かかります。治療内容、治療時間の予約、寡分割照射(治療回数を減らした治療)については、放射線治療科にご相談ください。また、骨転移・リンパ節転移・脳転移・肝臓転移などの再発転移の場合にも、放射線治療科と連携して放射線治療を行います。
4 再発・転移と言われたら
万一再発した場合でも、化学療法・分子標的治療・ホルモン療法・放射線治療(注射薬による放射線治療も含む)など、患者さまの病態に応じて最善の治療を行います。骨転移発症の場合には、多職種の専門家による骨転移ボードという検討会を開き、放射線治療や手術療法、薬物療法、リハビリなどの治療方針を検討し実施しています。
病状に応じて地域連携室とも協力し、社会的支援・緩和ケアについても早期から対応いたします。
5 セカンドオピニオンについて
乳がんの初期治療、転移再発治療について、十分に説明を受けられてもなかなかご心配が尽きないこともあります。その場合には、セカンドオピニオンも選択肢の一つと思われます。
当院では、健診センターにてセカンドオピニオンをお受けしております。十分な時間をお取りしてご相談に応じます。当院の健診センター(TEL075-311-5311(代表))にご連絡いただき、セカンドオピニオンの予約をお取りください。
検査や治療費の概算例
以下は、3割負担での概算です。詳細は担当者にお尋ねください。
乳房超音波検査 | 1,000円 |
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マンモグラフィー | 3,000円 |
細胞診 | 3,000円 |
マンモトーム生検 | 30,000円 |
針生検 | 8,000円 |
乳房MRI検査 | 10,000円 |
- 外来手術(局所麻酔で腋窩のセンチネルリンパ節生検)の場合:約3万円
- 外来手術(局所麻酔で乳房部分切除術(悪性腫瘍手術))の場合:約10万円
- 2泊3日の入院手術(全身麻酔で乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検)の場合:約15万円
- 7泊8日の入院手術(全身麻酔で乳房切除術+腋窩リンパ節郭清術)の場合:約25万円
- 外来化学療法:使用する薬剤により異なります。
診療実績
(2023年度)
・乳癌手術件数 93例(乳房切除術:55乳房、乳房部分切除術:38乳房、両側乳癌症例2例含む。)
・乳房再建手術数 9例(一次再建:5例、二次再建:4例)
・化学療法件数 月間 約60件
・マンモトーム生検 年間約120例
進行度別 |
10年累積生存率 |
Ⅰ |
92.0% |
Ⅱ |
86.1% |
Ⅲ |
87.0% |
Ⅳ |
47.0% |
サブタイプ別 |
10年累積生存率 |
Luminal type |
90.9% |
Luminal-HER2 |
92.3% |
HER2 typr |
82.8% |
TNBC type |
82.7% |
地域医療機関との連携活動
乳がん地域連携パスにより地域の医療機関の先生と連携し、乳がん術後の診療を行っています。京都市乳がん検診の施設検診を行っています。地域の保健センターなどの講演活動、患者会を通じた講演活動を行い、乳がんについての啓蒙活動を行っています。
その他患者会活動
乳がん患者会「ビスケットの会」について
乳がんで治療された方々の情報交換や、医療者などからの情報提供などを通じて、少しでも患者様やご家族のお役に立つことを目的に、2010年11月27日に京都市立病院乳がん患者会『ビスケットの会』が発足しました。
会の名称は公募にて決定しました。微力ながら互いに人を助けるとの意味を込めて「微助人」、これを「ビスケットの会」としたのが由来です。年3回の定例会(3月、7月、11月)では様々な講師の方をお招きして講演会を行っています。そして年4回の会報の発行・郵送などを行っています。どうぞお気軽にご参加、ご入会ください。
詳しくは乳がん患者会(ビスケットの会)・乳がんサロンのページをご覧ください。
乳がんサロンについて
“乳がんサロン”は、毎月第3月曜日(第3月曜日が祭日の場合は第4月曜日の13時30分~15時)に、当院新館7階の患者サロンで行っています。自由参加で予約は必要ありません。皆さんが自由に集まり、おしゃべりする会です。治療や副作用の悩みもサロンでの情報交換で解決できることがたくさんあります。一度参加されてはいかがでしょうか。
会の運営に当たっては、ボランティアの方々を募集しておりますので、興味のある方はぜひご参加をお願い申し上げます。詳しくは、乳がん患者会(ビスケットの会)・乳がんサロンのページをご覧ください。
入会申込み及び詳細は、下記までお問い合わせください。
京都市立病院乳がん患者会 事務局 外科外来 電話 075-311-5311(代表)
臨床研究等
当科では、京都大学大学院医学研究科との共同研究で「乳がん微小環境形成に関わる分子生物学的機序の生体試料を用いた探索研究」を行っています。詳細は「京都大学医学部附属病院乳腺外科」のホームページをご覧ください。
学会、研究会への参加
日本乳癌学会、日本乳癌学会近畿地方会、京滋乳癌研究会、京都乳癌コンセンサス会議など、学会、研究会への積極的な参加・発表、論文発表を行っています。
その他
日本乳癌学会認定施設
遺伝性乳癌卵巣癌総合診療暫定基幹施設
マンモグラフィ検診施設画像認定施設
日本オンコプラスティックサージャリー学会認定施設